自分だけの絵本になったらもっとうれしい

 先日、岐阜県が主体となって主催した「エンジン03 in 岐阜」というイベントにゲスト出演をさせていただきました。各分野の専門家の方たちが一堂に集まり、「知の交流」を図るというシンポジウムです。岐阜県内で16種のテーマで行われ、僕が参加したのは、「図書館の楽しみってナンヤローネ?」というテーマです。

 そもそも僕は、毎日、本に囲まれて仕事をしてますから、図書館にわざわざ出かけて行って読書をするという習慣がないので、本当に僕でいいんだろうかとも思いましたが、そんなことは承知の上で選んでいただいてるだろうからと、遠慮なく、ただありのままに、素直に思っていることをしゃべらせていただきました。

 では、書店と図書館はどんな関係にあったらいいのでしょうか。「エンジン03」のちょっと前に、絵本業界の名物社長である、児童書専門出版社「絵本館」の有川さんに別件で電話をしたところ、話が図書館の話題に変わっていきました。親子で本屋に来て、子どもが「この絵本買ってー!」と言って持ってくると、「その絵本は図書館にあるでしょ」と言って却下する親がいるという話です。どこの本屋でもそういう話があるんですね。おおきな木でも、そういう光景は、「図書館」だけでなく、「保育園にあるでしょ」「学校にあるでしょ」も含めると毎日のように遭遇します。。

 図書館によく足を運ばれる方は、ときには書店にも足を運ばれると思いますが、図書館にない本を探すのは相当難しいし、図書館でお気に入りの本を見つけたからほしい、とたぶんその子は言ってるんでしょうね。絵本館が作って配っているリーフレットに、「図書館や学校・園で何度も借りてくるあの絵本。自分だけの絵本になったらもっとうれしい」と書いてあります。子どもは気に入った絵本があると、何度も何度も読みたがります。だから、1冊1,000円〜2,000円の絵本なんて安いもんです。と、書店としては思うんですけどね。

 「エンジン03」でご一緒した講師の方々は、新潮社編集長の中瀬ゆかりさん、社会学者の古市憲寿さん、女優・歌手・作家の中江有里さんで、書き手である皆さんも、できれば本は本屋で買って読んで欲しいというというのが本音だと思います。中江さんは、本代はお布施だと思ってください、などともおっしゃってました。

 さて、図書館の話に戻りますが、岐阜市には2015年に「みんなの森メディアコスモス」という複合施設ができ、その2階は仕切りの壁が一つもない広々とした市立図書館になっています。休みの日には親子連れもたくさん訪れていて賑わっています。陳列も楽しいし、自由に読めるスペースもたくさんあります。こんな立派な図書館が近くにあったら、本屋さんは大変なんじゃないですか、と心配していただける方もありました。しかし、今のところ、その影響はほとんどなさそうです。

 そして、ありがたいことに、図書館主催のイベントに出演させていただいたり、作家さんの講演会で販売をさせていただいたりということもあります。岐阜県内には他にもこうしたお付き合いをさせていただいている図書館がいくつかあります。しかし、中には、図書館で本を販売することはNGのところもありますが…。

 図書館は本を自由に読めて借りることもできるところ、本屋は本を買うところ、どちらも本好きが集まる町の文化拠点です。図書館でお気に入りを見つけて自分のものにしたい、となったら書店に足を運ぶ。そんな動線を行政にも積極的に作ってもらえたら嬉しいです。

おおきな木 杉山三四郎