ニリンソウの大群落を求めて上高地へ

 みなさんはニリンソウという花をご存知でしょうか。雪が溶けて一斉に群生する花ですが、このニリンソウの絨毯やその他の亜高山帯に咲く春の花に会うために、5月中旬にまた上高地を訪れました。

 上高地の魅力はといえば、何といってもあの清流梓川。あんなに美しい川は他では見たことがありません。うちの娘の名前にもしてしまったくらいです。そして、雪が残る穂高連峰と焼岳。コロナ騒動が起こる前に夫婦でスイスの山々を歩き、また行きたいと張り切っていたところ海外には行けなくなり、上高地で我慢しよう、などと傲慢な気持ちで訪れたところハマってしまったのです。それまで上高地というと登山の出発点でしかなく、人が多いのを避けて通過してましたが、大変残念なことをしてたわけです。そして、コロナ騒動の真っ最中は人がほとんどいなくて、バスもホテルもほとんど貸切。コロナの恩恵に預かりました。

 でも、今年はそうは行きません。半分以上は外国人客。いろんな言語が聞こえてきます。修学旅行の中高生たちも来ています。でも、この雑踏は河童橋までで、そこから整備された登山道を歩くと、あちこちから、コガラ、ヒガラ、ミソサザイ、オオルリ、コマドリ、アオジなどの鳥たちの鳴き声が聞こえてくるし、愛らしい花々が目に飛び込んできます。

 河童橋から岳沢湿原を通って明神へ。標準タイムは60分ですが、誘惑が多いのでその倍ぐらいの時間がかかります。ここまで来るとニリンソウの大群落が広がっていて、さらに徳沢まで90分ぐらいかけて歩きましたが、ずーっとニリンソウの群落が続いています。

 ご存知ない方のために少し解説しておきますと、一本の茎に、ギザギザに切れ込みがある葉っぱが茎を抱くようについていて、その上に二輪の白い花が咲くので「二輪草」という名前がついています。厳密に言うと、この白い花は萼片で、花びらはない植物です。この白い萼片が普通は5枚ですが、中には10枚ぐらいついているものもあるし、緑色の花もまれに見かけます。雪国の春の訪れを告げる花の一つだと思いますが、ここの群落は見事です。でも、花が終わると葉も枯れて地上から姿を消してしまうんですね。こういう花々のことを、スプリングエフェメラル(春の妖精)と呼ぶことがありますが、おなじみのカタクリの花などもその一つですね。

 今回、このニリンソウの他に期待していた花がサンカヨウ。昨年6月に訪れた時には花はほとんど終わっていましたが、今年はバッチリ。花が終わってもその後青い実がなり、それはそれで風情があるのですが、柔らかそうな大きな葉っぱの上に茎を伸ばして付く清楚な白い花は可憐な少女のような美しさです。

 他に今回出会った花は、ツバメオモト、オオバキスミレ、エゾムラサキ、エンレイソウ、ムシカリなど、上高地を代表する美しい花々。山菜もいろいろありました。至るところにコゴミゼンマイ、ヤマドリゼンマイ、タラ、ハリギリなど。でも、上高地は一切の採取が禁止となっているので、地元の人でもこれを食べることはできないのだそうです。クマが出るからと言って大規模な伐採をしているくせに、と思いますけどね…。

 徳沢でビールを飲んで休憩し、明神に戻ってくると、びっくりすることが起こりました。大学時代からの付き合いの友人にばったり。こんなこともあるもんなんですね。お互い同行者が未知の女性ではなくて、正式な奥方でよかった、というのが今回の旅のオチでした。

おおきな木 杉山三四郎