先日、2年ぶりに東京に行ってきました。昨年発刊された絵本『なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語』(たじまゆきひこ作/童心社刊)が、第54回講談社絵本賞に選ばれて、その贈呈式に出席するためです。毎年ご案内をいただくのですが、出席するのは初めて。定休日でもあり、日帰りで行ってきました。
『なきむしせいとく』については、昨年、僕も中日新聞のこども文庫欄で紹介したりしていて、田島さんに直接お会いして僕の気持ちもお伝えできたらと思いました。授賞式では、選考委員の絵本作家長谷川義史さんが選評を語られていましたが、最近、日本は武器を増やさなくてはいけないという動きになっていて、非常に恐ろしい。それよりもっと大事なことがあるはずだ。そんななか、こうした悲惨な過去があったことを伝える絵本が大御所の絵本作家田島さんが描かれたことはすごいことだ。そうです、僕もそう思います。太平洋戦争で唯一地上戦が繰り広げられ、兵隊以上に多くの民間人が犠牲になった沖縄戦のことは忘れてはいけないと思います。田島さんはこの作品が出来上がるまで、何度も取材を重ね、沖縄戦を扱ったたくさんの本や手記を読んで打ちのめされ、それを絵本にしていく作業はとてもつらかったとおっしゃってました。
二度と戦争を起こしてはいけない。このことを次の世代に向けて、折りにつけ発信していかなくてはいけません。武力で国を守ることなどできなかった国です。そのことを忘れてはいけません。それなのに…。平和って何なのか、いろいろ考えさせられた会でもありました。
そして、せっかく東京に行くのだからと、仕事の打ち合わせを一件と、もうひとつ目的を作りました。小石川植物園です。NHKの朝ドラ「らんまん」の影響で町を歩いていても雑草が気になって仕方がないという方が結構あるようですが、僕もその一人で、東京に行ったら牧野記念庭園かここに行こうと思ってました。「らんまん」は、植物学者牧野富太郎の生涯をモデルにした物語で、小石川植物園は牧野さんが研究拠点としていた場所でもあって、このドラマに合わせて、「牧野富太郎と小石川植物園」という企画展示も行われていました。東京のど真ん中にありながら広大な森林公園で、ここに国内外から集められた無数の植物が生えています。今回はあいにくの雨でしたが、傘をさしてドラマの主人公万太郎のように目をキラキラさせながら2時間ほど歩きました。天気の良い日にまた訪れたい場所です。
さて、一通りの用をすませてから、東京で仕事をしている娘を呼び出して、神田で居酒屋に。そしたらその近くにちょっと気になる看板が。「FOLK酒場Showa昭和」。これは行かねば、というわけで娘と同伴で店の扉を開けると、僕と同世代かつ同類と思われるおじさん、おばさんが席を埋めています。そして、ステージではギターで井上陽水の歌を弾き語っているおじさんが。ヤバいところに来てしまいました。スタッフもお客さんもみな顔見知りのような感じで、「順番が回ってきたらぜひ歌ってください」とのこと。先ほどからステージで演奏されていたのはみんなお客さんだったんですね。当然僕もギターを借りて歌いました。アンコールがかかったので、自分のオリジナル曲までやってしまいました。娘も豪華バンドをバックに堂々と歌ってました。
というわけで、植物を愛で、平和のことを考え、おまけに歌まで歌って、東京という大都会の多様性と奥深さを体験できたディープな一日となりました。
おおきな木 杉山三四郎