コロナより怖い「同調圧力」という化け物

 7月に刊行された『ほんとうのリーダーのみつけかた』(梨木香歩著/岩波書店)に引用されていた、あるテレビ番組の話なんですが、ちょっと面白い実験なので、ご紹介します。

 錯視の実験をするということで集められた10人の学生が、長さの違う2本の鉛筆AとBのどちらが長いと思うかを答えるという内容です。しかし、錯視でも何でもなくて、この2本の鉛筆は明らかにAの方が長いのに、1番から9番目の学生はみな「Bです」と答えます。彼らは事前にスタッフから「Bと答えるように」と言い含められていたんですね。そんなことは全く知らされていない10番目の学生は、Aの方が長いことは明らかなのに、首を傾げながらも「Bです」と答えてしまうのです。

 お分かりかと思いますが、これは同調圧力の実験なんですね。明らかに間違っていると思われる事柄でも、世間の大多数が「正しい」と言えば、それに抗って「違う」と言うことがいかに難しいことなのかということを示しています。

 思えば、この同調圧力は世の中が自粛ムードになっているときに顕著に現れますね。戦争中、「欲しがりません、勝つまでは」と言われ、「贅沢は敵だ」と、みんなが国民服やモンペ姿になりました。パーマをかけているというだけで、周りの冷たい視線を浴びるということもあったようです。そして、息子を戦場に送る母親は、嬉しいはずもないのに、「お国のため」と万歳をして送り出さなくてはいけませんでした。

 戦後75年を迎えた今年、新型コロナウイルス感染が世界を駆け巡り、日本でも依然終息の気配がありません。そんな中起こっているのが、自粛ムード。インフルエンザや熱中症に比べたら大した病気ではないのかも知れませんが、何しろ正体不明のウイルスなので、警戒心も強くなるのは仕方がないことでしょう。しかし、感染者が犯罪者のように扱われたり、謝罪に追い込まれたりというのはどう見てもおかしいです。先日も、集団感染した高校のサッカー部員がネットで叩かれたり、学校にも批判や中傷の電話が殺到しているというニュースがありましたが、コロナより怖いのがこの人間の集団心理です。マスク警察とか自粛警察と呼ばれている人たちは、自分が正しいことをしているという正義感に満ちているので、タチが悪いのです。感染した人の大半は、マスク着用、手洗い、うがいをちゃんとしていたのに、それでもかかってしまったのです。自分もいつ感染するか分からないのに、そういう想像力が働かないので、平気で人を痛めつけてしまうんでしょうね。

 短かった夏休みも終わり、子どもたちは猛暑の中、律儀にマスクをして登校し、学校でもあまり喋らないようにと言われているようです。おまけに、運動会や修学旅行も中止になったり…。これも感染防止対策? ウイルスそのものの脅威より、感染者を出してしまうことへの恐れでしょうね。これも同調圧力です。

 当店が主催する「野外塾」「ことば塾」は、できる限りの感染防止対策をとりながら、通常通り活動を始めました。感染の心配はないとは言いませんが、いつまでも家にこもっていては、肉体的にも精神的にもいいことは全くありません。通常の生活をしながら、コロナと付き合っていくことを考えるべきだと思います。インフルエンザなどと同様、どんな対策をとっていても、誰もがいつ感染してもおかしくありません。感染しても怯えることのない世の中であってほしいと願います。

おおきな木 杉山三四郎