「おおきな木はどうして『おおきな木』なんですか?」とときどき聞かれることがありますが、『おおきな木』(大きな木ではありません)という絵本をみなさんご存知ですか。店がオープンする半年ぐらい前でしょうか、店名をどうしようか、いろいろ悩んでおりました。そんなとき、ふとかたわらに置いてあった絵本が目にとまりました。「おおきな木」か、なかなかいいかも。公園に遊びに行って一本の大きな木があれば、その木の下でお弁当を食べたりしたくなるし、荒野にそびえる一本の大木はランドマークにもなるし、虫や鳥たちも寄ってくるし……。そうだ、みんなが心地よさを求めて集まってくる場所、そんな店になれれば嬉しいな。そんな気持ちで店名は決まりました。
では、この絵本『おおきな木』はどんな絵本でしょうか。アメリカで初版が発行されたのが1964年。本田錦一郎訳(篠崎書林刊)で日本語版が出たのが1976年となっています。しかし、現在日本で販売されているのは、村上春樹訳(あすなろ書房刊)で、タイトルは「おおきな木」のまま。原書に、bigとかtallとかの形容詞は使われていませんが、「長く読み続けられた本なので、混乱を避けるために、あえてそのままにした」(村上春樹氏あとがきより)とのことです。
作者のシェル・シルヴァスタイン(1930〜1999)という人は、僕は絵本作家としてしか知りませんが、漫画家、作詞作曲家、ミュージシャンなどとしても活躍した人で、原書の裏表紙には顔写真がデカデカと掲載されているくらいなので、アメリカでは有名人のようです。
ストーリーは明快です。
一本のりんごの木と一人の少年。少年は木に登ったり、枝にぶら下がったり、りんごを食べたり、かくれんぼをしたりして遊びます。でも、時は流れ、少年も大きくなると、木で遊ぶこともなくなり、木はひとりぼっち。ある日、少年はりんごの木にやって来て、お金が欲しいと言います。木は、お金はないけどりんごを集めて売ればいいとりんごを与えます。さらに年を経てやって来た少年は家が欲しいと言います。木は、私の枝を切って家を建てなさいと枝を与えます。さらに年を経て老人になった少年は船が欲しいと言います。木は、私の幹を切って船を作りなさいと幹を与えます。そして、さらに年老いた少年は休む場所が欲しいと言います。木は、この切り株に腰を下ろして休みなさいと言います。それで木は幸せでした。おしまい。
この絵本の原題は ”The Giving Tree” (与える木)。少年のことが大好きだった木は、少年の生涯にわたって自分のすべてを与えて、幸せだったということなんですね。全てを与えてしまっても、自己犠牲とは考えない。ましてや損得勘定などもないわけです。多くの人は、このりんごの木の行動に母性を感じ取ります。母と息子の関係というのはこういうものなのでしょうか。
また、僕はこの木は自然の恵みとも捉えることができるかもと思いました。人はみな、自然の恵みを与えられて育っていくわけですからね。この絵本に込められたメッセージは何なのか。こんなふうに、読んだ人がそれぞれに感じることができる絵本です。みなさんも是非一度お読みいただければと思います。
おおきな木 杉山三四郎