岐阜人のソウルフード「冷やしたぬき」

 今回はそばの話をさせていただきます。でも、言っておきますが、私はそば通ではありません。ただのそば好き。そば道を極めている方からしたらお叱りを受けるかもしれませんが、立ち食いそば好きなのであります。もちろん、本格的な手打ちそばも好きなんですが、こだわりの店はそれなりのお値段がするので、お腹いっぱい食べようとすると僕の生活レベルを超えてしまいます。というわけで、いろいろトッピングをしてもワンコイン程度で済む立ち食いそばで十分なのです。

 でも、残念ながら岐阜には立ち食いそば屋は一軒もないので、「麺類・丼物」の食堂で食べるしかありません。東京で仕事をしていたころには、帰りの電車に乗る前に駅の立ち食いそば屋にしょっちゅう立ち寄ってました。でも、名古屋に転勤になると、名古屋も立ち食いきしめん屋はあってもそば屋はない。不思議ですね。今ではたまに関東方面に行くことがあると、立ち食いそば屋に行くのがひとつの楽しみになっていて、朝も昼も行ってしまったりもします。

 ではみなさん、岐阜には「冷やしたぬき」というソウルフードがあるのをご存知でしょうか。たぬきそばといえば、ここら辺では天かすが載ったそばで、だいたいどんな麺類食堂のメニューにもありますが、「冷やしたぬき」というと、岐阜人がイメージするのはある有名店のあのそばのことなんです。その店の名前は「更科」。おおきな木からも徒歩10分です。

 先日、岐阜市内にある長良川国際会議場で行われた「さだまさしコンサート」に行って来ました。彼のコンサートはトークもおもしろいんですが、そのネタにも「更科の冷やしたぬき」がありました。「今日、更科で冷やしたぬきと木の葉丼を食べて来まして〜」というと、場内がどよめきました。「えーっ、さだまさしのような有名人でも、あの庶民が通うそば屋に行くんだ!」とか「今日、更科にさだまさしがいたんだー!」みたいな反応でしょうね。僕は、「更科の冷やしたぬき」と言っただけでここに来ているほとんどのお客さんが分かってしまうというこの共通認識(ちょっと大げさですが)に感動しました。このどよめきで、ここにいる人たちみんな知り合いなんじゃないかと思ってしまいましたね。

 じつを言うと、更科を経営されているご家族はご近所同士なので皆さん昔から知っているんですが、うちが店を始めるとき、「更科のような店にするのが目標です」と奥様に言ったことがあります。あれから25年。とても足元にも及びません。うちはそこまで認知度もなければ行列ができることもないですからね。地元に定着するというのは並大抵のことではないのです。更科はまた地元だけでなく、週末などは県外ナンバーも結構来てますからね。マスコミ登場率も高いのです。

 とまあ、更科の話が長くなりましたが、冷やしたぬきの他にも岐阜人にとってのソウルフードはいろいろあるでしょう。でも、岐阜人からしたらそれが他の地域にはない独特のものであることは知らなかったりします。で、このたび岐阜新聞社から出た『ちほ先生が見た岐阜人の不思議』(大藪千穂著)を読んでみてください。京都に生まれ育った著者ならではの驚きが綴られていて、岐阜人の僕も改めて「へえー」と驚いています。日本各地にはそれぞれの文化があって、不思議なのは岐阜人だけではないのですが、不思議であることに誇りを持って生きて行きたいと思います。

おおきな木 杉山三四郎