ギターをケースから取り出し、一番低い6弦をボーンと鳴らすと、子どもたちが足をばたつかせてワーッ!と歓声が上がる。次に5弦をボーン。すると、また、ばたばたワーッ! 4弦をボーン、ばたばたワーッ! これは、岐阜市内にあるN保育園の1〜2歳児クラスのルーティンになっている光景ですが、ギターのチューニングだけでこれだけ盛り上がる子どもたちは他ではあまり見かけません。そして、子どもたちからリクエストの声がかかります。このクラスの大のお気に入りは、『おっぱい』(みやにしたつや作/鈴木出版)。ドアをガラッと開けて部屋に入っていくと、僕の顔を見るなり、「おっぱい」。ギターを抱えるとまた、「おっぱい」。どうも僕の顔には「おっぱい」って書いてあるらしいです。昨年の4月からのお付き合いになる子たちですが、月2回の絵本タイムで毎回やってきたので、おそらく20回以上『おっぱい』を歌ってきました。
僕は絵本に曲をつけて歌ってますが、そのCDも聴いてくれてますから、僕の歌で子どもたちも保育士さんたちもみんな大きな声で歌ってくれます。この保育園の2〜3歳児クラスでは、『ぶきゃ ぶきゃ ぶー』(内田麟太郎作、竹内通雅絵/絵本館)がお気に入りで、これもほぼ毎回やってるかも。他の絵本は座って聴いてくれますが、これが始まるとみんな立ち上がって、歌に合わせてぴょんぴょん飛び跳ねて踊るので、じつに愉快です。
大人の感覚からすると、一度読んだ絵本は何度も読み返したりしなくてもと思われるかも知れませんが、子どもは気に入った絵本は何度読んでもらっても嬉しいんですね。我が子が小さかったころのことを思い出してもそうです。『ごろごろにゃーん』(長新太作・絵/福音館書店)を飽きるほど読まされましたが、何がおもしろいんだか、こちらにはよく分からない。そんな絵本ですね。絵本を読んでいるとき、子どもには大人とは違う時間が流れているんでしょうね。
僕はN保育園以外にもあと二つの保育園に毎月お邪魔していますが、そのうちS保育園はもう7〜8年になるので、子どもたちとの付き合いも濃厚で、N保育園同様、僕が顔を見せるだけでどよめきが起こります。ここでは未満児〜年少さんと年中〜年長さんの二つに分けて絵本タイムをやっていますが、そのどちらでも人気なのが、『いちにちおばけ』(ふくべあきひろ作、かわしまななえ絵/PHP研究所)。季節関係なくリクエストがかかりますが、やるのは夏場と子どもたちの声に負けたとき。こわい妖怪たちが出てきますが、何が出てくるかよく知っているくせに、ページをめくるとキャー!って怖がって、隣の子と抱き合ってるんですね。
ここの年中〜年長児クラスでは、『うし』(内田麟太郎作、高畠純絵/アリス館)も大人気。牛が後ろを振り返ると「うしがいた」というただそれだけのナンセンスストーリーですが、これがいいんですね。これも僕は歌ってますが、ギターの演奏に続いて、「うしがいた〜」と、近所中に響き渡るような大きな声で大合唱になったり、うしごっこに発展したりもしています。
年長さんたちとは3月の絵本タイムでお別れということで、最後にみんなで写真を撮ったり、タッチをしたり、ハグをしたり、キスされたり…。可愛さ余って、「みんなを連れて帰ろかなー」って言ったら、なんとみんなから、「行く行くー!」という声が返ってきました。
こんな風に絵本でつながってきた子どもたちが僕には大勢いますが、みんなすばらしい宝物です。
おおきな木 杉山三四郎