「今日は5月5日、春風が一番美味しい日です」。これは絵本『ワニぼうのこいのぼり』(内田麟太郎文、高畠純絵/文溪堂)の一節ですが、24年前の5月5日、おおきな木はオープンしました。もう24年も経ってしまったんですね。ついこの前のことだったように思いますが、当時小学生で店に来てくれてた子が子連れで来てくれたりすると、時の流れを認めざるをえません。
思えばこの24年の間に、世の中は大きく変わりました。オープンしたときインターネットはありませんでした。パソコンはあったけど、文書を作成するためのワープロ機能と表計算とデータベースで使うもので、通信手段としてはファックスが最新の手段でした。写真はもちろんフィルムカメラで、このつうしんに載せる写真はハサミで切って版下に貼り付けたりしてました。デジカメになってからまだ20年も経っていませんが、メディアを作る人間にとっては画期的でした。パソコン上でトリミングもできるし、露出の補正もできるし、その他いろんな編集ができてしまいますからね。
そして携帯電話の普及。これは訳あって僕は相当前から使ってました。自動車電話ほどではないですが、結構重くてでかいやつでした。そしてスマホの出現が10年ほど前でしょうか。出たころは「こんなややこしいものを誰が使うのか」と思ってましたが、今では当たり前になってしまって、分からないことは何でも教えてくれる便利なツールになってしまいました。当店のホームページは2年前にリニューアルしましたが、今やホームページを閲覧している人の約9割はスマホからという時代になってしまったそうで、何とか波に乗り遅れないようにと頑張った訳です。
とまあ、この間のITの進歩はいいこともあった訳ですが、出版業界においてよかったことって何だろうと思うと、ちょっと首を傾げてしまいます。3月末に店を閉めた児童書専門店の草分けとして知られた名古屋のメルヘンハウスの社長さんがおっしゃってました。「ネット通販には勝てなかった」と。ネットの普及に伴って町の本屋さんは次つぎ姿を消し、うちも絶滅危惧種的な存在になってしまいましたからね。
でも最近嬉しいことがありました。岐阜新聞のコラム「分水嶺」を読んでいたら、絵本の話題が取り上げられています。「『しろくまちゃんのほっとけーき』は名作だ」とか「名古屋市で児童書専門の老舗書店が閉店した」とか。ふむふむ。そして、「県内にも頑張っている店がある」と。えっ? 「野外活動の企画まで幅広く手がける」とも書いてある。おそらくこれはおおきな木のことなのでは…。ちゃんと地元の新聞社は見ていてくれたんです。さらに、「子供には子供の文化がある。主役は自分たちだと思える場所が、健やかな育ちには必要だ。店主も同じ思いだろう」と。そうなんです。その通りなんです。今までいろんなところで訴えてきたことですが、マスコミの方にも共感していただけたのには意味があります。ほんと嬉しかったです。
来年は25周年を迎えます。なんと四半世紀。店の外壁が剥げたり汚れたりでみすぼらしくなってきているので、気持ちを新たにリニューアル作戦を画策中。そして、今年の5月5日はそのスタートラインとして「24周年スペシャル」(裏面およびHP参照)を計画しました。僕のCDにもなっている絵本ライブネタに一番多く登場するお二人の作家、内田麟太郎さんと高畠純さんをお招きしています。皆様のご参加心よりお待ちしております。
おおきな木 杉山三四郎